南スラヴの民話

日本人がイメージを抱く西洋ファンタジーといえば、剣と魔法、ドラゴン、巨人、妖精たちのお話です。しかし、実際に西洋の昔話や伝説を紐解いてみても、ドラゴンや巨人が登場する話には、あまりお目にかかりません。ところが、セルビアをはじめとする東南ヨーロッパには、日本人が思い描くような素晴らしい剣と魔法の物語がたくさん眠っています。

ここで紹介している民話は、そんな東南ヨーロッパ物語への入り口のひとつです。まずは、本書で南スラヴの魅力を存分におたのしみください。

新刊


邪な女皇のもとへ

南スラヴに伝わる昔話『Opet zla svekrva(オペト・ズラ・スベクルヴァ)』の日本語訳です。  むかしむかし、あるところに、ふたりのみなし子の娘がいました。ふたりの娘は、大通りを歩く皇帝の息子を窓越しに見つめながら、溜息をついていましたが……。


既刊


皇帝トロイアンの山羊の耳

南スラヴに伝わる昔話『U cara Trojana kozje uši(ユ・ツァラ・トロイアナ・コズィエ・ウシ)』の日本語訳です。むかしむかし、あるところに、トロイアンという名前の皇帝がいました。この皇帝には、ひとつ秘密がありました。それは、この皇帝の耳は山羊の耳だったのです……。皇帝の耳が動物の耳を持っているといえば『王様の耳は驢馬の耳』が日本でも有名です。本書で語られている物語は、この『王様の耳は驢馬の耳』の南スラヴ地域版と言える内容です。しかし、なぜ、南スラヴでは驢馬の耳ではなく山羊の耳なのか。そもそも、為政者の耳が動物のものであるということは、どんな意味があるのか。本書では、この点に注目した解説付きです。


三つの指輪

南スラヴに伝わる昔話『Tri prstena(トリ・プルステナ)』の日本語訳です。むかしむかし、あるところに、ひとりの息子を持つ王がいました。王は、その息子にふさわしい結婚相手として、隣の国の王女を選びました。しかし、その王女は、求婚を受けるには条件があると、難題を出してきて……。


鳥の娘

南スラヴに伝わる民話『Tica đevojka(ティッツァ・デヴォジカ)』の日本語訳です。 

むかしむかし、あるところに、ひとりの息子を持つ王様がいました。王様は、たったひとりの息子を大事に育てていましたが、息子が年頃になったとき、息子を旅に出させました。それは、広い世界のなかで、この国の王子の結婚相手に相応しい娘を探すためでしたが………。


皇帝の再婚

南スラヴに伝わる昔話『Car htio kćer da uzme(ツァー・ヒティオ・クチェア・ダ・ウーズメ)』の日本語訳です。

むかしむかし、あるところに美しい妃と、そして妃に瓜二つの美しい娘を持つ皇帝がいました。しかし、あるとき不幸にも妃は重い病を患ってしまいました。妃は皇帝にたったひとつの遺言を遺して亡くなりました……。


娘と皇帝の知恵くらべ

南スラヴに伝わる昔話『Djevojka cara nadmudrila(ジェヴォジカ・ツァラ・ナドムドリラ)』の日本語訳です。

むかしむかし、あるところに、貧しい親子が住んでいました。しかし、その娘は賢い知恵の持ち主で………。

まるで、日本の『一休さん』のような愉しい頓智話です。こどもはもちろん、大人にも読んでもらいたい珠玉の物語です。


空でも地上でもない城 Čardak ni na nebu ni na zemlji

むかしむかし、あるところに三人の息子と一人の娘を持つ皇帝がいました。しかし、この娘は箱入り娘で、外の世界を一度も見たことがありませんでした。あるとき、末の息子が「妹の嫁入り前に外の世界を見せてはどうか」と提案しました……。


女皇と羊に変えられた花嫁 Caričina snaha ovca

むかしむかし、あるところに、心が氷のように冷たく、身勝手で、悪い考えを持つ女皇が住んでいました。その女皇には、たったひとりの王子がおり、女皇は、この王子に相応しい結婚相手を見つけてきましたが……。


魚の名付け親 Kum riba

むかしむかし、あるところに子に恵まれない夫婦がいました。たとえ、子が生まれても洗礼の儀式まで生きることがありませんでした。悲しみにくれる夫婦でしたが、ある日、男は村はずれの老婆のところに行って……。

折口信夫が論じた「貴種流離譚」にも通じるセルビアの昔話であり、本書では、貴種流離譚の視点、そしてヨーロッパの動物学的視点から考察した「解説」付きです。


チェラ ーはげー Ćela

むかしむかし、あるところに三人の娘を持つ皇帝がいました。一番目の娘は、とある王家へ嫁いでいきました。二番目の娘も、また別の王家へと嫁いでいきました。そして、三番目の娘は、姉妹のなかでももっとも美しく、皇帝にとって大切な娘でした。皇帝は、この三番目の娘にふさわしい婿を探し出そうとしていました。

しかし、この三番目の娘が選んだのは……?


アジュダヤと王子 Aždaja i carev sin

むかしむかし、あるところに三人の息子を持つ王様がいました。ある日、いちばん上の兄王子は狩りに出かけましたが、帰ってくることはありませんでした。そして、二番目の王子も……。最後に、末の王子が狩りに出かけますが……。

セルビアを代表する昔話『アジュダヤと王子 Aždaja i carev sin』は、こどもから大人まで、みんなが愉める痛快ストーリーです。


妖精の山 Vilina gora

むかしむかし、ある男が旅に出ました。その男は、やがてひとつの町にたどり着きますが……。

原題のタイトルは『Vilina(ヴィラの)gora(山)』であり、本書は、ヴィラを妖精と訳しました。日本人が「妖精」という単語から連想するのは、小さな体でありながら、その背には昆虫のような羽を持つ女の子のキャラクターだと思います。しかし、この昔話に登場するセルビアの妖精「ヴィラ」は、そんな存在ではありません。大きさも、姿かたちは人間のそれと変わらないにも関わらず、とても恐ろしい存在として描かれています。日本の妖怪でいえば雪女が近いイメージでしょうか。見た目は人間と変わりませんが、人々から恐れられる山の魔性の存在です。

この昔話では、そんな妖精たちが登場する掌編ですが、物語の構造として面白く、なによりユニークです。日本から遠く離れたセルビアの山々を想像しながら、この物語をお愉しみください。


しみったれと太っぱら

原題の『Tvrdica i darežljivac(ツヴルディッツァ イ ダレズリジヴァッツ)』は、直訳するのであれば『守銭奴と、非守銭奴』と言ったほうが適切です。しかし、これを訳すにあたって「守銭奴の対義語」を考えてみましたが、日本語に適当な対義語がありません。「磊落」という熟語が「ちいさなことにこだわらない者」の意味ですが、あまり一般的ではないし難読熟語です。日本語の語呂を考えて『しみったれと太っ腹』と訳すことも考えましたが、最終的にオリジナルのまま『ツヴルディッツァとダレズリジヴァッツ』としました。意味としては「守銭奴と非守銭奴」と受け止めて読み進めてみてください。


川の主 GOSPODAR REKE

セルビアに伝わる小さな勇者、ビバーチェが登場する昔話の日本語訳です。同時刊行の『ビバーチェと九つ首の竜』と主人公は同じ名前ですが内容は異なります。

「山椒は小粒でもぴりりと辛い」と言いますが、それは国が変わっても似たところがあるようです。この物語は「胡椒の粒(ビバーチェ)」と呼ばれるほど小さい体でありながら、怪力を持つ少年のお話です。

ただし、セルビアにはビバーチェと呼ばれる小さな子の話がいくつか伝わっているようで、区別する意味で、本書は『騎士のビバーチェ(Biberče Vitez:ビバーチェ・ヴィテス)』と名前をつけてあります。本書は一九一八年に米国で出版された『SERBIAN FAIRY TALES(Elodie L. Muatovich)』所収の『Sir Peppercorn(サー・ペッパーコーン)』を底本としています。

ビバーチェが登場するもうひとつのお話『ビバーチェと九つ首の竜(Biberče i devetglava ale :ビバーチェ・イ・デヴェトグラヴァ・アーレ)』は、セルビアの言語学者、ヴーク・カラジッチ(Vuk Stefanović Karadžić)が蒐集した物語を底本としております。


ビバーチェと九つ首の竜 Biberče i devetoglava ale

セルビアに伝わる小さな勇者、ビバーチェが登場する昔話の日本語訳です。

「セルビアのむかしばなし」の『騎士のビバーチェ』と主人公は同じ名前ですが内容は異なります。

小さな勇者ビバーチェは、まるでセルビア版『一寸法師』ともいうべきストーリーです。生まれつき、からだの小さな少年が、旅先で姫に出会うのですが……。さてさて、どうなるかは読んでみてのお愉しみです。

ただし、セルビアにはビバーチェと呼ばれる小さな子の話がいくつかあるようです。区別する意味で、本書は『ビバーチェと九つ首の竜(Biberče i devetglava ale :ビバーチェ・イ・デヴェトグラヴァ・アーレ)』と名前をつけてあります。詳しくは、解説で触れますが、本書は十六世紀から十七世紀にかけて活躍した言語学者、ヴーク・カラジッチ(Vuk Stefanović Karadžić)が蒐集した物語を底本としております。

もうひとつのビバーチェはマダム・エロディ・ L・ミヤトビッチ(Madame Elodie L. Mijatovich)が英語に翻訳して出版されたものを底本としており、こちらの原題は『Sir Peppercorn(サー・ペッパーコーン)』となっています。セルビアのかたにお話を伺いながら『騎士のビバーチェ(Biberče Vitez:ビバーチェ・ヴィテス)』と名前をつけました。


黄金の林檎と九羽の孔雀 Zlatna jabuka i devet paunica

セルビアに伝わる昔話『Zlatna jabuka i devet paunica(黄金の林檎と九羽の孔雀)』の日本語訳です。

むかしむかし、あるところに黄金の林檎の木と三人の息子を持つ皇帝が住んでいました。しかし、その黄金の林檎は夜な夜な、誰かに盗まれて……。


灰かぶり ーペペルユーガー Pepeljuga

むかしむかし、あるところに牛飼いの少女たちがいました。少女たちは、遊びに夢中で、牛たちが切り立った崖に近づいていることに気がつきませんでした。そんな少女たちに忠告をする老人があらわれましたが……。

本編だけでなく、各地のシンデレラ型民話について、考察した「解説」を付した1冊です。「シンデレラ」はヨーロッパだけでなく、アフリカ、アジア、そしてもちろん日本にも流布します。世界中にあまねく広がったその背景には、いったい何があるのでしょうか。「灰」、「母」、「靴」の3つのテーマごとに考察をしています。


動物のことば NEMUŠTI JEZIK

セルビアに伝わる昔話『動物のことば』の日本語訳です。

むかしむかし、あるところに正直者の羊飼いがいました。羊飼いは、あるとき森のなかで一匹の蛇と遭遇します。やがて、羊飼いは、動物のことばがわかる能力を手にいれるのですが……。

セルビアでは、非常に有名なお話で、同様の昔話はヨーロッパだけでなくアジアの各地、そして日本にも伝わっています。なお、キリスト教圏で「蛇」といえば、悪魔の象徴のように思いがちですが、この昔話はセルビアにキリスト教が伝わる以前の古い民話です。昔のセルビアでは、蛇は家の守り神だったということです。


バスチェリク ー鋼鉄の男ー BAŠ ČELIK

セルビアに伝わる昔話『Baš Čelik(バスチェリク)』の日本語訳です。

むかしむかし、あるところに三人の息子と三人の娘を持つ王様が住んでいました。王様は死の床にいましたが、最後に遺言を残しました……。

 

2016.11.18発行



南スラヴの人々が住む地域

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